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「バルス」について

たけくまメモ

パンダとポニョ(2): たけくまメモ

と言うエントリを読んだ。ここで宮崎駿監督が、竹熊さんのインタビューに応じる形で、諸星大二郎の『マッドメン』について2時間ほどしゃべり続けたことや、それが『天空の城ラピュタ』の公開三ヶ月前で、さらに宮崎駿監督は『ラピュタ』のラストを考えている途中だった事などが書かれている。

このエントリを読んだ時、僕も丁度『マッドメン』を読んでいた。んで、少しばかり驚いた事がある。それがあの「バルス」という言葉についてなんだけど、ちょっと検索したところ、誰もネットには書いていないようなので、一応書いておく。


※『マッドメン』の一部ネタバレを含むので注意。


『マッドメン』の主な舞台はニューギニアの奥地。周囲から隔絶され、他の文化との関わりを頑なに避け、原始的な生活を続ける地域にも、文明の波が押し寄せている。その地域には言い伝えが残っており、そこには、聖書のノアの洪水と同じような物語がある。

要約すると以下のようなもの。


昔、山の上の村に、自分の村の災いを逃れた男が大きなカヌーに乗って、やって来た。

男はまずカラスを放って自分の村の様子を見に行かせたが、戻ったカラスはまだ村に帰ってはいけないと言った。

次にハトを放ったところ、戻ったハトは、まだもう少し待てと言った。

もう一度ハトを放ったところ、戻ってこなかった。

心配した男は様子を見に、カヌーで川を下り、二度と帰ってこなかった。


その男の名が「ノア」であり、ノアは、災いが過ぎたら鳥が帰ってくる、と山の上の村の人々に伝えた。「鳥が帰るまで待て」と言われた彼らは、ノアが去ったあともずっと鳥を待ち続けており、鳥が来て初めて山を下りる事ができる。それまでは山の上で周囲から隔絶した生活を続けなければならない。(もしくは、「続ける事ができる」。)

で、作品中では原住民語でハトの事を「バルス」と言うらしい。

そして以下、集英社の文庫版『マッドメン1 オンゴロの仮面』(2006)の75ページから主人公のセリフを引用。

ノアが去ってからここでは時はとまった……

時のとまった世界はユートピアだ……

おれたちは外から隔絶された楽園にいた……

鳥が帰ってくれば楽園は終わる!

ウソや金やだましあいや……

そんな白人のどれいになるのだ!!

と主人公は叫び、文明(現実)と楽園のどちらを選ぶか悩むが、結局人々に「鳥は帰ってきたぞ!!」と伝え、楽園を終わらせる。ここで、もちろん鳥とはハトの事であって、つまり「バルス」の事である。したがって、この作品中では、「バルス」は楽園を終わらせるものとして出てくる。


より詳しく書けば、「バルス」とはピジン・イングリッシュ(商取引なんかで使われる、土着化・単純化した英語)における「飛行機」の事でもあって、飛行機は物資を投下してくれるので、恵みを与えてくれるものとして信仰の対象になっていたりする。そういうものも絡んでいるのかもしれないけれど、よくわからんので、詳しくはマンガを読んで下さい。

で、まあ僕には果たして宮崎駿監督が、このマンガから言葉とその意味をそのまま持ってきたのかどうかはわからないけれど、響きを参考にした程度の事はあってもおかしくないかもなーと思った。どうやら『マッドメン』は宮崎駿監督お気に入りのマンガのようだし。

この『マッドメン』という作品は、『もののけ姫』と似たところもあって、そういう面でもおもしろい(もちろん、一つの作品としてもすごくおもしろい)ので、気になる人はぜひどうぞ。